先生、教えてほしいことがあるんだけど
「先生、教えてほしいことがあるんだけど……」
高校三年生の貴子が、そう聞いてきた。
「定期テストはまだ先だろ?随分と真面目なんだな、貴子」
私は、そう答えた。まさか、新卒二年目で高校三年生の担任になるとは……
ただ、現状を嫌うことはなかった。受け持ちの生徒たちも、次の進路へと向けてたくさん質問してくれる。非常に、教え甲斐がある。
だが、この日の貴子は他愛のない世間話で終わってしまった。何を聞きたかったのだろう。
「先生、教えてほしいことがあるんだけど……」
「昨日は、何も教えていなかったね。何を知りたいんだい?」
「ポーカーフェイスの作り方……」
最初は、なぜそんなことを知りたいんだろうと不思議に思った。
そういえば、貴子はAO入試の面接を控えているのだった。貴子は、面接練習をしたいに違いない。
それから小一時間ほど、面接対策を行った。貴子は、あがり症らしい。だから、目線であったり話し方などを教えた。
確かに、面接において表情は大事なポイントだ。緊張していることは、表情からヒシヒシと伝わる。ましてや、初対面の相手となると大きなマイナスポイントとなってしまう。
それに加えて、バレない嘘を適度につきなさいと伝えた。
「先生、教えてほしいことがあるんだけど……」
しばらくして、貴子がまた聞いてきた。面接は、上手くいったのだろうか。しかし、センシティブな問題なため、結果について聞くことはしなかった。
「真夏には、何をしたの?」
私は、一瞬ドキリとした。貴子は、不思議な子だ。なぜ、そんなことを知りたいんだろう。
私は、趣味でもあるキャンプと答えた。
「先生、教えてほしいことがあるんだけど……」
「今度は、なんだい?貴子」
「ローブの使い方を教えてほしくて……」
どうやら、貴子は家族とキャンプに行くらしい。そこで、良いところを家族に見せつけたいそうだ。
そこで、キャンプ経験のある私に貴子は質問したのだ。
私は、小一時間ほどロープの縛り方について教えた。ロープの縛り方は、奥が深い。私は、一度縛ってしまえば、ほどけない方法も教えてあげた。これは、私のオリジナルである。
「先生、教えてほしいことがあるんだけど……最近寝れなくてさ、いい薬とか知らない?」
最近、貴子は元気がない。そうか、寝不足だったのか。私の実家は、薬局を営んでいる。実家から、睡眠薬を貰うこともあった。それを知って、貴子は聞いてきたのだろうか。いや、なぜ知っているのだろう。
後日、私は貴子に睡眠薬を渡した。効果の高い薬だ。だから、飲み過ぎないようにと注意した。
それからというものの、放課後に教室で貴子と会話することが習慣となっていた。
「貴子も、先生の家に行ってみたい……」
この日は珍しく、質問が来なかった。女子高生は皆、こう思うのだろうか。仲良くなった若い男性教師の家にあがりたいと。
生徒を家にあげるのは、初めてではなかった。だから、貴子の願望にも応えてあげた。
貴子は、男性の部屋に入るのは初めてらしい。色々と部屋を見て回っては、物色のようなことをしている。不思議な子だ。
だけど、部屋を見て回る貴子は楽しそうだった。時折、こちらを見ては微笑んでいる。
「先生、教えてほしいことがあるんだけど……」
「なんだい?貴子」
「お茶ってどこにある?」
当然、冷蔵庫だ。麦茶を作ってあるから、それを飲んでいいよと伝えた。
そうすると貴子は、麦茶をコップ二つに入れて持ってきてくれた。貴子は、気の使える子だ。
麦茶をグビっと飲む。その瞬間、アタマがクラっとした。アタマが床に沈む。ダメだ。起き上がれない。
これは、まさか……クスリ……
目を覚ますと、貴子が顔を覗かせていた。
意識は少しずつ戻ってきているものの、ダメだ。まだ、起き上がれない。
ふと、私は首の違和感に気づいた。これは、ロープ……?
「先生、やっと起きたね!貴子ね、これから人を殺すから緊張しちゃって……」
この子は、何を言っているんだろうか。
「でもね。先生に教えてもらったポーカーフェイスで、なんとか乗り切ったと思うの。だって、先生も気づかなかったでしょ?」
貴子は、不思議な子だ。何を言っているか、訳が分からない。
そんなことを考えている暇はないことに、気がついた。首のロープをどうにかしなければ……!
「先生、無駄だよ。それ、先生から教わったロープの縛り方。ほどけないんでしょ?」
「先生、まなつの名前出したとき、一瞬ビックリしてたよね。まなつ、先生の家に行くっていった日に行方不明になっちゃった」
「先生の部屋には、まなつのアクセサリーが落ちてたわ」
違う……!あれは、事故だったんだ。
ロープが、グイッときつくなる。ダメだ……息ができない……
「先生、最後に聞きたいんことがあるんだけど……」
「まなつに、何をしたの?」