ペンギンになって考える

イヌに喰われたペンギンの身にもなってみろ

毎日一緒にいたキミへ

毎日一緒にいたキミへ

 

 キミと私は、毎日一緒にいた。

 毎日だと大袈裟に聞こえるかもしれないが、これは紛れもない事実だ。むしろ、毎日という言葉より四六時中の方が適切かもしれない。

 

 寝るときも一緒だった。キミは、朝が弱いようだ。私が、何回も叫んでいるのに起きやしない。

 ましてや、目覚ましをセットし忘れたら、私のせいにすることもあったね。今ではいい思い出だ。

 

 電車に乗るときも一緒だった。キミは、ずっと音楽を聴きながら窓の外を眺めていたね。キミが聞いていた音楽は、全て覚えてしまったよ。

 

 会社に行くときも一緒だった。もちろん、勤務中はあまり私を構ってくれなかった。構ってくれるのは、通勤中かお昼休憩のときくらいだった。

 

 寝る前も、色んなことを話してくれたね。キミは、泣くこともあった。笑うこともあった。私をがっちりと掴んで、私のもとで愛を囁くこともあった。

 

 暇なときには、キミは動画を観ていた。そんなキミの姿は、美しかった。

 そういえば、私は映画館で映画を観たことがない。あれは、どうも眠くなってしまう。

 

 私の行方が分からなくなったとき、キミは必死で私を探してくれたね。それも、仲間総出で探してくれた。嬉しかったよ。

 

 旅行にもたくさん行った。写真もたくさん撮った。今でも、私の記憶にしっかりと焼き付いているよ。

 方向音痴だったキミは、私の指示を無視して縦横無尽に駆け巡っていたね。旅先で、老舗のお店に向かえなかったときは、愚痴を呟いていた。まさか、私のせいにはしていないよね?

 

 私は、キミといれて幸せだったのかもしれない。

 "かもしれない"と言ったのは、私が本来そんなことを感じていいはずがないからだ。所詮、私はキミの道具に過ぎない。

 だけど、キミのお陰でそう感じることが出来た。

 

 私は、そろそろ寿命が尽きる。最近、元気が長持ちしないのだ。これでは、キミに迷惑を掛けてしまう。

 

 案外、キミと居た時間は短かった。三年も経ってない。だけど、キミは大きくなった。色んなことを経験した。それは、私が全て覚えているよ。

 

 私は、職務を全う出来ただろうか。

 寂しいが、これでお別れだ。キミは、新たな相棒と契約した。悔しいが、これでお別れだ。

 

 私は、誇りに思う。

 キミのスマートフォンとして全うした、この日々を。