ペンギンになって考える

イヌに喰われたペンギンの身にもなってみろ

地球最後の日

「地球最後の日には、なにを食べたい?」

 キミは、ボクにそう聞いた。

「ラーメンかな」

 って、ボクは答えたんだ。

「日本人らしい答えね。ラーメンの発祥がどこの国だか知らないけど、あんなにラーメンを食べたがるのは日本人しかいないわ」

 キミは、ボクにそう言った。

「じゃあ、キミはなにを食べたいんだい?」

 って、ボクは聞き返したのさ。

「おもち」

 キミは、ボクにそう答えた。

「キミこそ、日本人らしいじゃないか。こんなとき、こんな場所でその食材を言えるのは日本人しかいないさ」

 って、ボクは笑ったのさ。
 キミは、ボクに笑われたのがよっぽど不快だったんだろう。怒った顔をしている。
 でも、久しぶりにキミの顔を直接見れて良かった。そう思うよ。しばらくは、キミの顔をガラス越しでしか見ていなかったからね。

「地球最後の日に、あなたは何をしたい?」

 キミは顔を元に戻して、ボクに聞いてきた。

「いつも通り、仕事をこなすさ」

 ボクは、何気なく答えた。

「あなた、家族は?」

 キミは真剣な顔をして、ボクに聞いてきた。

「いないよ。とっくに死んださ」

 ボクも、真剣に答えた。

「そう。なんで、私たちが選ばれたんでしょうね」

「適性があっただけさ。それと強運」

「私たち、本当に運が良いのかしら。私には、分からないわ」

 ボクは、キミの問いには答えなかった。ボクも分からないからだ。
 ボクたちは、選ばれた。
 地球は、最後の日を迎える。それも、3日後にだ。

「今さらだけど、もう私たち仕事をする意味ないわよね?」

 キミは、思い付いたように言ったね。

「そうだね。だけど、仕事なんて暇つぶしさ。ボクは、暇が嫌いだからね」

「明日には、仕事も辞めようかしら」

「手続きを取らなくても、誰も文句は言わないさ。それどころじゃないだろうしね」

 キミとボクは、内容の無い会話を続けたね。良い暇つぶしだ。
 そして、いよいよ地球最後の日だ。
 地球は、巨大な隕石が衝突して木っ端微塵になるらしい。それが判明したのは、1週間前。どんなに小さいウイルスや原子だって見つけられるのに、地球サイズの隕石をギリギリまで見つけられなかったなんて……
 現代の科学も情けない話だ。

「死ぬのは、怖い?」

「不思議と怖くない。きっと、地球にいるヒトが全員死んでしまうからだろう」

 ボクは、キミにそう答えた。キミは、そのときも強張った顔をしていたね。
 ボクたちは、選ばれた。元はというと、ボクは科学系の研究者だった。キミは、たしか哲学系の研究者だったね。
 キミは、よっぽど優秀な研究者だったんだろう。この仕事に、専門外の研究者が選出されるなど、聞いたことがない。
 まして、国の威信をかけた一大プロジェクトだ。まあ、その国ももう無くなってしまうのだけれどもね。
 地球最後の日。仕事をしようとしたけども、もうやめた。最後に、生まれ育った故郷でも見ておこうか。
 ボクは、モニター前のイスに腰掛けた。故郷の皆んなは、何をしてるだろうか。
 神頼み?それとも、パーティー
 そんなことを考えていると、キミが起きてきた。

「随分と寝てしまったわ。そろそろ時間かしら」

「そうだね。ほら、見えてきたよ。隕石が」

 僕らは、基地の外へ出る。そして、宙を見上げた。宙には、青く綺麗な大きな星。ボクたちは、月面から声を揃えて、言ったんだ。

「ばいばい、地球」