ペンギンになって考える

イヌに喰われたペンギンの身にもなってみろ

デスゲーム

「あなたたちには、今から殺し合いをしていただきます」

 

 

 男女六人が、無機質な部屋に閉じ込められていた。ドアが一つ。当然、このドアは開かない。壁はコンクリート剥き出しで、窓はない。

 この六人には、共通点があった。

 借金だ。

 同じ闇金業者からカネを借り、返済が不可能になった者たち。返済が出来ないのは、皆同じ理由だ。額が大きすぎるのだ。

 トゴと呼ばれるシステム。十日で五割増の利子。彼らは、大変な闇金業者から借りてしまった。

 返せなくなった彼らは、どうなったのか。

 闇金業者は彼らを取っ捕まえ、無機質の部屋に閉じ込めた。ゲームに参加させられるために。

 闇金業者は、ただの金貸しではない。金の亡者だ。儲けなければならない。

 そこで考えたのが、デスゲームだった。

 返済能力を無くした者同士で、殺し合いをさせる。金持ちが、それを観戦する。誰が勝つのか、賭けるのだ。

 言わば、金持ちのためのギャンブル。億単位のカネが動き、業者は運営金で儲けることも出来る。

 

 

 俺は、闇金業者の一員だ。就活を失敗し、大学卒業後も暇を持て余していた。そこで、サークルの先輩に声を掛けられ、今に至る。

 今日は、デスゲームの司会進行役。

 六人がいる部屋には監視カメラが設置されており、俺は別室からいつでも様子を見ることが出来る。

 気絶させられ、部屋に監禁された彼ら。本当にバカな奴らだ。闇金からカネを借りたら、その人生は終わりだっていうのに。まあ、我々もプロだから闇金とバレないようにしているのだが。

 一人の男が、目覚める。辺りを見回し、状況を判断する。落ち着いている奴だ。この状況でも、焦ることをしない。今回の一番人気だろう。

 徐々に、メンバーたちが目を覚ます。ギャルが騒ぎ始めた。唯一のドアを叩いているが、開くはずもない。ドアに背中をつけて、項垂れている。ギャルは五番人気といったところか。番狂わせを期待しよう。

 俺は、メンバー全員が目を覚ましたことを確認し、カメラをオンにする。部屋には、二百インチのテレビが設置してある。ここには、仮面を被った私の姿が映っているはずだ。

 そして、マイクに向かってお決まりのセリフを言った。

 

「あなたたちには、今から殺し合いをしていただきます」

 

 俺以外、誰もいない部屋でキメ顔をする。この瞬間が、一番気持ちいいのだ。

 しかし、今回は違った。

 何も反応がない。

 あのセリフを言えば、皆一斉にテレビを見るはずなのに。

 今回は、おかしな奴らだ。どうせ、生きる活力を失っているのだ。生きていても、業者から追いかけられる人生。今更、デスゲームに巻き込まれたからって驚きもしないのだ。

 

「唯一生き残った方には、賞金として一億円が配布されます」

 

 これもお決まりのセリフ。だが、六人は一人も興味を示すことはなかった。しかも、会話まで始めている。

 これは、まずい。金持ちたちは、彼らの殺し合いを見に来ているのだ。仲良く、和まれては困る。クレームものだ。

 こんなのは、初めてだ。さて、どうしようか。

 

 

 目覚めたら、私は知らない部屋の中にいた。コンクリートに囲まれた部屋。ずっと居たら、アタマがおかしくなりそうだ。

 私の周りには、五人が横たわっていた。気絶しているのだろうか。

 そういえば、私もどうやってここに来たのだろう。覚えているのは、パチ屋に行って負けたこと。イライラしながら帰っている途中に、後頭部に強い衝撃を食らったこと。

 そうか。私も気絶させられ、連れて来られたのか。

 五人が目を覚まし始める。混乱している女性もいたが、私は自分を落ち着かせた。皆が混乱しては、おしまいだ。

 部屋にあるモニターが、急に明るくなる。そして、仮面の男が映っていた。背景は真っ黒で、どこで撮影しているのかよく分からない。

 モニターには、仮面の男。いかにも、デスゲームが始まりそうだった。だけども、何も起こらない。

 十分は経っただろうか。モニターに男が映ったからというものの、何も進行しなかった。

 五人は、何が起こるのかとモニターを注目していたが、今は見るのを辞めてしまった。

 私は、モニターを注視する。左下に、マイクの上に斜めスラッシュの赤いマーク。

 

「ミュート……」

 

 私は、小さくそう呟いた。