ペンギンになって考える

イヌに喰われたペンギンの身にもなってみろ

北風と太陽 ザ リベンジ

『一人のサラリーマンが、一本道を歩いています。

 

「もう十一月か……寒くなってきたな」

 

 男は買ったばかりの、コートを羽織り次の営業先へと向かいます。

 そうすると、ものすごい勢いの北風が、サラリーマンに向かって吹き荒れます。

 

「うっわっ!!さっむ!!」

 

 男は、襟を立てて叫びます。その叫びを掻き消すかのように、北風は吹き続けました。

 

「なんだってんだよ!異常気象かっ!!」

 

 男は、コートのボタンをしっかりと襟元までかけて、再び叫びました。まるで、昨日上司に怒鳴られた記憶を投げ捨てるかのように。

 サラリーマンがコートのボタンを全て留め終えると、北風が急に吹き止んでしまいました。

 

 しばらくすると、サラリーマンに向けてぽかぽかと温かい日差しが、なげかかります。

 

「きたきたきた!!おれの時代がっ!!」

 

 温かさに感動したサラリーマンは、またも叫びました。嫌な上司が左遷されたときのように。

 その感動も束の間、どんどんドンドン気温が上昇します。

 

「待て待て待てっ!今度は暑すぎやしないか!」

 

 気温の変化はジェットコースターでも、サラリーマンのテンションは流れる水のように、一定です。

 サラリーマンは、ふと気づきました。

 

「このシチュエーション、どっかで……」

 

 アタマの中に雷が落ちます。

 

「これはっ!童話の北風と太陽だっ!」

 

 捻くれ者のサラリーマン。こんなことを思います。

 

「おれは、負けねえ。このコート、五万もしたんだぜ。それを腕に掛けて持って歩こうなんて……こんな屈辱あるかよ」

 

 気温は更に上がり、観測史上最高気温に。だけども、サラリーマンはコートを脱ぎません。

 そうすると、空から大きな地割れのような声が響き渡りました。

 

「ちょ、スタッフ?台本と違うんだけど。百年前の時みたいに上手くやってくれないとさ……困るんだよね……」

 

 サラリーマンは、空を見上げました。なんと、大きな大きな太陽が喋ってるではありませんか。

 

「太陽が喋ってる……めちゃくちゃデカいじゃん、目も口も。てか、あれ出来レースかよっ!」

 

「ちょ、もう帰るわ。この企画中止で。こっちの事務所も然るべき対応しますので、覚悟しといてね」

 

「太陽性格わっる!太陽が帰るってどこに帰るんだよ!」

 

 急に当たりが暗くなります。時計を見ても、まだ午後三時。暗くなるには、早すぎました。

 しかし、その暗さによってサラリーマンは勝ちを確信します。

 

「おれは、自然現象に勝ったんだ……」

 

 ガッツポーズをして、サラリーマンは営業先へと足を運ぶのでした。

 

 おしまい』

 

「ママ、この話私の知ってるのと違う!」

 

 娘は、読み聞かせを終えた母親に言い放ちます。母親は、ベットに横たわり天井を見ながら答えます。

 

「当然よ、お母さんのオリジナルなんだから」

 

「ちっとも、面白くなかったわ。この話」

 

 真っ暗な部屋で、寝転ぶ二人。今日の読み聞かせは、失敗に終わったようです。

 

「ママ、なんで北風は無口だったの?」

 

 娘は、未完成であろう話の欠点を見つけ指摘します。

 

「北風は、空気だから人間に見えなくて当然なのよ」

 

 母親は、答えになっているか分からないことを言って切り抜けます。

 

「ママ、童話には教訓っていうのがあるって聞いたわ。今日の話の教訓ってのはなに?」

 

 娘は、つまらない話を聞かされて怒っているのでしょう。荒削りで未完成な童話に、指摘を続けます。

 

「元々は、厳罰よりも寛容的に対応する方が良いって教訓なのよね。だけどお母さん、あの話嫌いなのよ」

 

 母親は、指摘を避けつつも話を続けます。

 

「だって、一番可哀想なのは旅人じゃない?しょうもない戦いに勝手に巻き込まれて、コートを脱がされて……最終的には、当事者の太陽までに感謝している。なにも悪くないのに、罰を受けて感謝してってあんまりだと思わない?」

 

 母親は、まだまだ話を続けます。

 

「これこそが、社会の構図ですって感じで嫌なのよね。だから、お母さんは理不尽を受けた人が、最終的に気持ち良く終われるようにしたかったのよ」

 

 と、話を終えると沈黙が始まります。どうやら、娘は寝てしまったようです。

 お母さんは、思いがけない方法で寝かしつけることに成功しましたとさ。

 めでたし。めでたし。