ペンギンになって考える

イヌに喰われたペンギンの身にもなってみろ

ヨナヨナカクショウセツ 『天使と悪魔』

Y子はよくいる普遍的な女性だった。
ある日、突然頭の上からポンッと破裂音がした。Y子は驚いて見上げてみると、そこには絵本で見るような妖精が2匹浮いていた。1匹は白く、もう1匹は黒かった。
「私は白い妖精。いつもあなたの為を思って助言するわ」
と白い妖精が言った。
「私は黒い妖精。おまえの欲望のままに助言してやるぜ」
と黒い妖精は言った。Y子は暫く状況を呑み込めなかったが、妖精たちが消える様子もないので、仕方なく共に過ごすことにした。
Y子は、お昼休憩になると決まって食堂に行った。そんな中でも、Y子にとって今日は特別な日だった。月に1度のスペシャルハンバーグ定食の日。Y子にとって、自分自身へのご褒美でもあったのだ。列に並び、食券を買おうとしたところ、頭の上から声がした。
「あなた、スペシャルハンバーグ定食を頼もうとしているのね!そんなのダメよ。カロリーも高いし、栄養も偏っているわ。私思うの。最近、過剰摂取しすぎよ。それに野菜を食べてないわ。そんなんではカラダに悪いわよ。今日のお昼はサラダにしましょう」
と白い妖精は促すように言った。そうすると間髪も無く、黒い妖精が反抗した。
「おまえ!今日はスペシャルハンバーグ定食に決まってんだろ!それにおまえは腹ペコだ。ご飯大盛りで、ジュースも飲んじゃおうぜ。太っても平気さ、その分動けばいいだから」
そういうと黒い妖精はゲンコツを白い妖精の頭に食らわせた。ムッと表情を変えた白い妖精は、黒い妖精に殴りかかり、しまいには2匹は取っ組み合いの喧嘩を始めた。しかし、Y子はそんなことを気にしていなかった。何を食べるかの方が重要であったからだ。黒い妖精の言うようにスペシャルハンバーグ定食をたんまりと食べたいことは事実だが、白い妖精の言うように最近太ってきたことも事実であった。そんなことを考えていると、ふとこんな考えがY子の頭を過った。白い妖精は、客観的な助言である。さらに、白いのだから正しいことを言うに決まっていると。Y子は、白い妖精に従い、サラダのみを買った。
それからというものの、何か2匹の妖精が言いあえば、Y子は白い妖精の助言を受け入れた。
「今日は雨だけど、走りに行った方がいいわ。毎日続けることが健康のためにも重要なのよ」
「いいや、今日は休むべきだ。なんならずっと走る必要はない」
「これは今日中に終わらせるべきだわ。そうしないと他の人に迷惑が掛かってしまうもの」
「いやいや、もう夜中だぜ? 今日は寝て、そんなもの投げ出してしまえ」
そんな日常が続いていると、ある日Y子は突然倒れ病院に搬送された。どうやら、栄養失調や過労が原因らしい。Y子は意識が朦朧とする中で、自分が何をすべきなのか分からなかった。2匹の妖精がうっすらと視界から見えるが、こちらの顔を覗くだけで何も助言をしてこなかった。するとポンッと破裂音がして、今度は灰色の妖精が浮いていた。
「こういうのは兼ね合いが大事なんです。」
そう灰色の妖精が助言している間に、Y子は息を引き取った。黒い妖精は灰色の妖精に向かってこう言った。
「おまえはいつも助言が遅い。それにそんな中途半端な助言など誰にも役に立たない」
その助言を最後に、3匹の妖精は姿を消していった。